長期服用のメリットと将来の妊娠に備えるケア
代表的な悪性腫瘍の予防
●卵巣癌の減少
月経での周期的な排卵の際、卵巣上皮が破裂・修復を繰り返します。ところが、その修復の基点が悪性化のタイミングとなることがあります。低用量ピル服用中は排卵が抑制されますから、この修復の頻度が下がります。そのため卵巣癌の発生が低下するとの臨床結果が報告されています。
●子宮内膜癌の減少
子宮内膜癌の発生にはエストロゲン(卵胞ホルモン)が関与しています。子宮内膜が必要以上にエストロゲンに暴露すると子宮内膜癌を起こしやすいといわれていますが、低用量ピル服用中は、低く調整されたエストロゲンに暴露した子宮内膜を定期的にはがすので、将来の子宮体癌のリスクを下げるといわれています
代表的な良性疾患の予防
●骨盤内感染症の予防
頚管粘液の性質を精子が入り込みづらいよう変化させるため、精子のほか病原体の侵入も妨げられ、骨盤内感染症の予防効果があります。
●子宮内膜症
子宮内膜症とは、月経初期に厚みを増す子宮内膜が子宮以外の場所で増殖し、それが剥がれ落ちる月経のたびに子宮以外の場所からも出血がおこる症状で、痛み、月経の長期化も伴います。低用量ピルには子宮内膜を薄くさせるという作用があるため、子宮以外でその増殖があった場合も、薄い状態を保つことができるため、月経痛の軽減や月経時以外の腰や下腹部痛の軽減などに効果が期待できます。
●プレ更年期症状の改善
女性ホルモンの中でエストロゲン(卵胞ホルモン)は、女性器の他にも脳、血管、消化器、骨、皮膚、粘膜など全身に作用して細胞の健康な状態を保ってくれています。閉経前後の10年間を更年期とよび、エストロゲンレベルの急激な低下による身体のさまざまな不調がおこりはじめますが、その前のプレ更年期(30代後半~)にも同じような不調が起こる場合があります。 低用量ピルの服用はエストロゲンを補充することになるので、プレ更年期におこる不調の改善を期待することができます。
避妊薬ですが、将来の健康な妊娠のための薬でもある
ピルは避妊のための薬です。しかし不妊症になる可能性を低下させるための薬でもあります。矛盾しているようですが事実でもあります。子宮内膜症や骨盤内感染症は不妊症のおもな原因のひとつですが、ピルの服用はこれらのリスクを減らします。また、望まない妊娠に対しての中絶手術も不妊の原因となり得ます。低用量ピルは、子供はまだ、と思っている間に身体が整い、本当に子どもが欲しくなったら万全の状態で臨むことができる薬として、使用を考える余地がじゅうぶんあります。
女性特有の疾患は自然の月経のたびにさらされるホルモンの量が少なからず関係しています。ここ数十年で一生における妊娠の回数が極端に減ってきたことで、罹患の確率が高くなりつつあります。ピルの服用はホルモンの分泌や排卵をおだやかに抑制するため、機能性卵巣嚢腫や良性乳房疾患、子宮腺筋症、子宮外妊娠、などさまざまな疾患に対しても予防や治癒など好ましい影響を与えます。
生涯健康な身体を維持するために
妊娠・出産という大切な役割を果たす機能をもつ女性の身体は、産める機能を持ったデリケートさを持つ故に、思い切って言ってしまえば男性の身体よりよほど複雑で面倒です。そのデリケートさを担っている女性ホルモンが、女性の身体に生涯にわたってどのように影響を与え続けるのか見てみましょう。
女性の一生と身体の変化
人間は歳を重ねていくと身体も変化してゆきますが、特に女性はホルモンの分泌量や働きが年齢に応じた変化が順を追って現れます。
幼年期(0~8歳ごろまで)
女性ホルモンはまだ休眠状態ですが、卵巣の中にはこの時すでに数百万個の卵子のもとになる原始卵胞がつくられています。出生時に外性器に特徴が出ます(第一次性徴)。
思春期(8~18歳ごろまで)
女性ホルモンが分泌され始め、身体はふっくらと丸みをおび女性らしくなります。11~14歳ごろには初経を迎え、15~18歳ごろには排卵や月経が安定しはじめ、妊娠・出産が可能となります(第二次性徴)。
性成熟期(18~40代半ば)
女性としての身体の機能が完成します。女性ホルモンの分泌が順調になり、女性らしい外観、容姿が整います。仕事、恋愛、結婚、妊娠、子育てと、もっとも忙しく充実した時期です。
更年期(40代半ば~50代半ば)
卵巣の働きがだんだん衰え、女性ホルモンの分泌量が少なくなる一方で、卵巣を刺激するホルモンが過剰な状態になります。結果ホルモンバランスが崩れ、更年期障害といわれるさまざまな不調や症状がおこり、個人差はありますがやがて閉経を迎えます。
円熟期(60歳ごろ~)
女性ホルモンの分泌が完全に止まり、生殖器や卵巣も萎縮していきます。身体も丸みを失ってゆきますが、脳や神経は身体ほどは急激には衰えず、人生の知恵に磨きがかかります。
このようにエストロゲン(女性ホルモンのひとつ)は、月単位で、数年単位で分泌量が多くなったり少なくなったりします。この変化にともなっておこりやすい女性特有の疾患があります。また、寿命が延びたことに加え、昔に比べ出産や授乳の機会(このあいだ月経は停止する)が減ったことでも月経の回数が大幅に増えた現代では、女性ホルモンの影響を受ける期間がそれだけ伸び、それだけ月経関連の疾患に悩む方が多くなる結果ともなりました。低容量ピルは、ストレスや不眠などちょっとしたことでも乱れやすい女性ホルモンのバランスを調整して、避妊の他にも女性特有の疾患が予防できる薬でもあります。自分の身体のしくみについてしっかりと知って、身体からの小さなSOSがもしあったら耳を傾けながら、がまんを当たり前にせず、必要があれば低用量ピルなど処方薬を希望しましょう。