ファボワールの禁忌:抗リン脂質抗体症候群の患者

経口避妊剤 デソゲストレル・エチニルエストラジオール錠(ファボワール)添付文書の禁忌「抗リン脂質抗体症候群の患者」についての医学的・実務的に正確な解説です。


1. 抗リン脂質抗体症候群(APS)とは

抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid Syndrome:APS)とは、自己抗体(抗リン脂質抗体)により血栓ができやすくなる自己免疫性疾患です。

本質

  • 血液が異常に固まりやすい(後天性の血栓性素因)
  • 静脈・動脈の両方に血栓を起こす
  • 妊娠合併症を起こしやすい

ファボワールに含まれるエストロゲンは血栓形成をさらに促進するため「絶対禁忌」


2. 抗リン脂質抗体とは何か

以下のいずれか(または複数)が持続的に陽性である状態を指します。

  • ループスアンチコアグラント(LA)
  • 抗カルジオリピン抗体(aCL)
  • 抗β2グリコプロテインⅠ抗体(抗β2GPI)

ポイント

  • 「抗凝固」という名前だが、体内では血栓を促進
  • 検査は12週以上あけて2回陽性が原則

3. APSの診断基準(簡略)

① 臨床基準(どれか1つ)

  • 動脈血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)
  • 静脈血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)
  • 妊娠合併症
    • 10週以降の胎児死亡
    • 重症妊娠高血圧症による早産
    • 習慣流産(3回以上)

② 検査基準(どれか1つ)

  • 抗リン脂質抗体の持続陽性

①+②を満たすとAPSと診断


4. なぜAPS患者はファボワールが禁忌なのか

エストロゲンの作用

  • 凝固因子↑(Ⅱ, Ⅶ, Ⅸ, Ⅹ)
  • 抗凝固因子↓(プロテインS)
  • 血管内皮機能悪化

APSの病態

  • 抗体による血管内皮障害
  • 血小板活性化
  • 補体活性化

両者が合わさると:

APSによる血栓傾向
+
エストロゲンの凝固促進
= 致死的血栓症リスク

脳梗塞・肺塞栓症の発症リスクが急増


5. 添付文書で「禁忌」とされる具体的な患者像

以下はすべてファボワール使用不可です。

明確に該当

  • APSと診断されている患者
  • APSで抗凝固療法中(ワルファリン、DOACなど)
  • SLEに合併したAPS(二次性APS)

実務上「APS患者」と同等扱い

  • 抗リン脂質抗体が持続陽性
  • 血栓症や流産歴がありAPSが強く疑われる
  • 検査未確定でもAPS疑いで経過観察中

6. 特に注意

  • 若年女性の脳梗塞既往
  • 原因不明の深部静脈血栓症
  • 習慣流産歴+抗体陽性
  • ピル使用中に血栓を起こした既往

これらがあればCOCは原則処方不可


7. APS患者に推奨される避妊法

エストロゲン非含有が絶対条件です。

推奨

  • 黄体ホルモン単剤(POP)
  • レボノルゲストレルIUS(ミレーナ)
  • 銅付加IUD
  • 非ホルモン避妊

避けるべき

  • すべてのエストロゲン含有ピル
  • 経皮・注射エストロゲン

8. 要点

項目 内容
APSとは 抗リン脂質抗体による後天性血栓性素因
主な抗体 LA、aCL、抗β2GPI
なぜ禁忌 エストロゲンで血栓リスクが致命的に上昇
添付文書の意味 診断確定例だけでなく強く疑われる例も含む
代替 エストロゲン非含有避妊法が原則