マーベロンの禁忌: 抗リン脂質抗体症候群の患者
添付文書に記載されている 「抗リン脂質抗体症候群(APS)の患者」 がなぜマーベロン禁忌になるのかわかりやすく解説します。
■抗リン脂質抗体症候群(APS)とは?
抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid Syndrome:APS)は、自己免疫異常により「抗リン脂質抗体」という異常な抗体が血液中に出現し、血栓が非常にできやすい体質(血栓性素因) となる病気です。
最大の特徴は:
静脈や動脈に血栓(血の塊)が繰り返しできる
ことで、一般的な人より 血栓症・心血管系イベントのリスクが高い状態です。
また、妊娠時には
- 流産(反復流産)
- 胎児発育不全
- 妊娠高血圧症候群
などの原因にもなります。
APSは膠原病(特にSLE)に伴う二次性と、抗体のみが存在する原発性があります。
■特徴となる抗リン脂質抗体
血栓形成に関連している抗体は臨床で次の3つ:
- ループスアンチコアグラント(LA)
- 抗カルジオリピン抗体(aCL)
- 抗β2グリコプロテインI抗体(抗β2GPI抗体)
これらが単独または複数陽性となると、血栓リスクが高いとされます。
特に複数陽性(double positive、triple positive)は血栓リスクが非常に高いグループです。
■なぜ血栓ができるのか(病態)
抗リン脂質抗体は血液中で以下のような作用を起こすと考えられています:
- 血小板を活性化し凝集を促進
- 血管内皮細胞を傷害・刺激
- 凝固因子を活性化
- 線溶(血栓を溶かす作用)を抑制
- 補体系の活性化
→ 「血が固まりやすい状態」を人工的に作り出してしまう。
さらに炎症状態や妊娠、手術などの刺激で、血栓が一気に形成される場合もあります。
■APSがあると起きる症状
【静脈血栓】
- 深部静脈血栓症(DVT)
- 肺塞栓症(PE)
- 上肢・腹部の血栓症
【動脈血栓】
- 脳梗塞(若年性脳梗塞の原因の一つ)
- 心筋梗塞
- 眼動脈閉塞
【妊娠合併症】
- 反復流産
- 死産
- 胎児発育不全
- 妊娠高血圧症候群
→ これらの血栓症・妊娠合併症は抗リン脂質抗体が原因で起きることが知られています。
■マーベロンが禁忌になる理由
マーベロンはエストロゲン(エチニルエストラジオール)を含むため、
- 血液凝固因子(II, VII, VIII, X, フィブリノゲンなど)を増やす
- 抗凝固因子(抗トロンビンやプロテインS)を減らす
- 血小板凝集亢進
- 線溶抑制
つまり 血栓を作りやすい方向に作用します。
したがって、既に血栓性素因を持つ APS 患者の血栓形成リスクを さらに大幅に上昇させるため、非常に危険です。
抗リン脂質抗体症候群は代表的な「強い禁忌」として扱われます。
■添付文書の解釈
添付文書には:
「抗リン脂質抗体症候群の患者[血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。]」
と書かれており、これは
- エストロゲンが血栓リスクを加速する
- APSは血栓素因としてリスクが非常に高い
- 血栓症発症例の報告が複数存在する
ため、絶対に投与してはいけない(禁忌)という意味になります。
つまり:
「APS患者は血栓リスクが極めて高く、マーベロンの使用は重度の血栓症を誘発する可能性がある」
という解釈です。
■「疑い」でも禁忌?
臨床上は次のような場合でも 使用を避けます:
- 抗リン脂質抗体が陽性(診断確定前)
- 若年の原因不明の脳梗塞
- 繰り返す静脈血栓症
- 反復流産歴
- SLE(膠原病)でAPSが疑われる
→ APSは「抗体が陽性なら血栓リスクが高い」ため、疑いでも禁忌として扱うのが安全です。
■避妊選択肢はどうなる?
APS患者はエストロゲン含有薬は全て禁忌です。
代替として推奨されるのは:
●安全性が高い選択肢
- 黄体ホルモン単剤ピル(POP)
- IUS(子宮内黄体ホルモン放出型・ミレーナ)
- 銅IUD
- 低用量プロゲスチン注射
が一般的に安全とされています。
※ただし抗リン脂質抗体症候群は妊娠合併症の管理も特殊であるため、産婦人科・膠原病専門医の管理が望ましいです。
■まとめ
抗リン脂質抗体症候群(APS)とは:
自己抗体により血栓が非常にできやすい体質になる免疫疾患で、若年でも静脈・動脈の血栓や妊娠合併症を引き起こす病気。
マーベロンはエストロゲンにより血栓形成を促進するため、
APS患者は血栓症のリスクが極めて高く、マーベロンは絶対禁忌
となります。







