ファボワールの禁忌 肺高血圧症の患者、他

デソゲストレル・エチニルエストラジオール錠(ファボワール)の添付文書に記載されている禁忌で「肺高血圧症又は心房細動を合併する心臓弁膜症の患者、亜急性細菌性心内膜炎の既往歴のある心臓弁膜症の患者」について、循環器学的背景・なぜOCが禁忌なのか・実臨床での線引きを体系的に解説します。


① まず全体像(この禁忌の本質)

この禁忌は一言で言うと、

「血栓・塞栓を起こしやすい“危険な心臓”に、エストロゲンを追加してはいけない」

という意味です。

ファボワールに含まれる エチニルエストラジオール血液凝固を促進し、血栓・塞栓症リスクを上げるという本質的な作用を持ちます。心臓弁膜症に以下の条件が重なると、致死的な血栓塞栓症(脳梗塞・肺塞栓など)の危険が急増します。


② 心臓弁膜症とは(前提)

● 心臓弁膜症

心臓の弁(僧帽弁・大動脈弁など)が、

  • 狭くなる(狭窄)
  • 閉じにくくなる(閉鎖不全)

ことで、血流が乱れ、血栓ができやすくなる疾患です。

ただし「すべての弁膜症」が即禁忌ではありません
禁忌になるのは「高リスク型」です。


③ 肺高血圧症を合併する心臓弁膜症の患者とは

● 肺高血圧症(PH)とは

肺動脈圧が異常に高くなった状態で、

  • 右心負荷増大
  • 低酸素状態
  • 血流うっ滞

が生じます。


● なぜ危険か

  • 肺循環が障害されている
  • 血液が滞りやすい
  • 血栓ができやすい

ここにOCを加えると肺塞栓・右心不全・突然死リスクが上昇


● 禁忌に該当する例

  • 僧帽弁狭窄症+肺高血圧症
  • 先天性心疾患に伴う弁膜症+肺高血圧
  • エコーで肺動脈圧上昇が指摘されている弁膜症

④ 心房細動を合併する心臓弁膜症の患者とは

● 心房細動(AF)とは

心房が規則的に収縮せず、

  • 血液が心房内によどむ
  • 血栓が形成されやすくなる

状態です。


● なぜOCが危険か

  • 心房細動だけでも 脳塞栓リスク↑
  • 弁膜症が加わると 血栓形成はさらに加速
  • エストロゲン → 凝固促進

弁膜症 × 心房細動 × OC脳梗塞・全身塞栓の高リスク状態


● 禁忌に該当する例

  • 僧帽弁狭窄症+心房細動
  • 弁膜症で抗凝固療法(ワルファリン等)を受けている
  • 発作性でも心房細動の既往がある

※ 発作性・一過性でも 「既往があれば該当」


⑤ 亜急性細菌性心内膜炎(SBE)の既往歴がある心臓弁膜症とは

● 亜急性細菌性心内膜炎とは

心臓弁に細菌が付着し、

  • 弁破壊
  • 血栓(疣贅:vegetation)形成
  • 塞栓症

を起こす感染症です。


● なぜ「既往歴」でも禁忌なのか

SBE後の弁は:

  • 構造的に損傷
  • 血流が乱れる
  • 血栓が付着しやすい

見た目が治っても“危険な弁”のまま

そこにOCを投与すると:

  • 疣贅由来の塞栓
  • 脳梗塞
  • 再発性心内膜炎

のリスクが上昇します。


● 禁忌に該当する例

  • 過去にSBEを起こした弁膜症
  • 手術後でもSBE既往がある
  • 人工弁+SBE既往(特に高リスク)

⑥ なぜ「現在無症状」でも禁忌なのか

理由は3つあります。

  1. 血栓リスクは構造的に残る
  2. 再発時は重症・致死的
  3. OCはリスクを確実に上乗せする

「症状が落ち着いている=安全」ではありません。


⑦ 添付文書の「患者」の範囲(重要)

含まれるのは:

  • 現在合併している
  • 過去に診断された
  • 抗凝固療法中
  • 軽症・発作性でも既往あり

診断名・既往歴ベースで判断されます。


⑧ 該当患者に推奨される避妊法

  • 黄体ホルモン単独法
  • 子宮内避妊具(IUD)
  • バリア法

エストロゲン非含有が原則


⑨ まとめ(要点)

  • 対象は 高血栓リスク型の心臓弁膜症
  • 禁忌に含まれるのは:
    • 肺高血圧症合併
    • 心房細動合併
    • 亜急性細菌性心内膜炎の既往
  • 理由は
    血栓・塞栓症の致死的リスク
  • 既往歴だけでも禁忌