マーベロンの禁忌で血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者

マーベロンの添付文書に記載されている禁忌項目で「血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者」が医学的に何を意味するのか、臨床的にどのような患者が該当するのかを解説します。※マーベロン(デソゲストレル/エチニルエストラジオール)は、エストロゲンを含む経口避妊薬であり、血栓形成リスクが上がることが添付文書で重要な注意点となっています。


1. なぜ禁忌なのか

エストロゲン(エチニルエストラジオール)は、血液凝固系を活性化し、血液が固まりやすくなる作用があります。そのため以下の疾患をすでに持っている、または過去に発症した人が服用すると、血栓が再発したり、重篤化するリスクが高いため「禁忌(絶対に使ってはいけない)」とされています。

つまり、この禁忌は:

血栓・塞栓・脳血管・心臓血管の病態を持つ患者、または過去にその病歴がある患者に投与してはいけない

という意味です。


2. 各疾患が意味するものと該当患者

(1) 血栓性静脈炎(Thrombophlebitis)

静脈に血栓ができ、その部位に炎症を起こしている状態です。

該当する例

  • 下肢深部静脈血栓症(DVT)
    →「足が腫れる」「痛む」「片足だけ太い」など
  • 表在性血栓性静脈炎
  • 長時間の入院や長距離移動後に発生した静脈血栓
  • ピル使用歴や妊娠・出産後に血栓ができた経験がある人

重要:一度DVTを起こした人は、再発リスクが高いため禁忌です。


(2) 肺塞栓症(Pulmonary embolism:PE)

静脈にできた血栓(多くは下肢DVT)が肺に流れて詰まる疾患です。突然の呼吸困難、胸痛が起き、命に関わります。

該当する例

  • 過去に肺塞栓症と診断されたことがある人
  • 入院中や術後に血栓が飛んで肺塞栓になった人
  • DVT→PEを経験した人
  • 妊娠中・出産後に肺塞栓になった人

肺塞栓は再発すると致命的になるため、ホルモン薬は禁止です。


(3) 脳血管障害(Cerebrovascular disease)

脳の血管が詰まる、破れる、血流が障害される疾患の総称です。

該当する例

  • 脳梗塞(ischemic stroke)
  • 一過性脳虚血発作(TIA)
    →「一時的に手がしびれる、話せない、視野が欠ける」
  • 脳静脈血栓症
  • 血栓性脳血管障害(血栓で脳へ血流が途絶)
  • 脳出血型は議論があるが、脳血管障害として禁忌に含む

重要ポイント

エストロゲンは血栓を作る方向に働くため、既往のある人は再発リスクが極めて高いと判断されます。


(4) 冠動脈疾患(Coronary artery disease:CAD)

心臓に血液を送る冠動脈が詰まり、心筋が障害される疾患です。

該当する例

  • 心筋梗塞(急性心筋梗塞、STEMI/NSTEMI)
  • 狭心症(stable/unstable angina)
  • 心臓カテーテル治療歴のある人
    (ステント留置、バイパス術など)
  • 心筋虚血性心疾患と診断された人
  • 冠動脈の狭窄が明らかになっている人

理由

血栓形成作用で、冠動脈の閉塞が悪化する、再発する危険があるため禁忌です。


3. 「既往歴のある患者」の意味

添付文書では、過去に発症したことがあるだけでも禁忌になります。

つまり、

  • すでに治療が終わっている
  • 今は症状がない
  • 病院のフォローが終了している

こうした場合でも、既往歴がある時点で禁忌です。

なぜ既往歴も禁忌なのか?

血栓・塞栓・脳梗塞・心筋梗塞などは再発率が高く、ホルモンが再発の引き金になることがあるためです。

「治ったから大丈夫」ではなく、「再発リスクを絶対に増やしてはいけない」という考え方。


4. “医師目線”で該当する具体的な患者像

該当する典型ケース

  • 若い頃にDVTを経験した女性
  • 出産後に肺塞栓を起こした人
  • 喫煙+高血圧で脳梗塞を起こしたことがある人
  • カテーテル治療でステントを入れた人
  • 狭心症発作でニトロを使ったことがある人
  • 心筋梗塞の既往歴がある人

こうした人は絶対禁忌となり、マーベロンは選択肢になりません。


5. “グレーゾーン”になりやすい例

以下の例は、患者側の自己判断で「大丈夫」と思いやすいですが、医学的には禁忌になり得ます。

  • 軽い脳梗塞(TIA)だった
    →これでも禁忌
  • エコノミークラス症候群で血栓ができた
    →禁忌
  • 原因不明の若年性脳梗塞があった
    →禁忌
  • 一回だけ狭心症発作があった
    →禁忌
  • 治療後に完全に元気
    →禁忌

「重かった or 軽かった」ではなく、病名がついた時点で禁忌です。


6. 禁忌に該当しないことが多い例(注意)

以下は原則として禁忌ではありませんが、慎重な評価が必要な例です:

  • 家族に血栓症がいる(遺伝的素因のみ)
  • 足の静脈瘤だけ(血栓がない場合)
  • 自己申告だけの「血が固まりやすい気がする」
  • 手術歴はあるが血栓歴はない

ただし、遺伝性血栓性素因(プロテインS欠損、プロテインC欠損、抗リン脂質抗体症候群など)」が疑われる場合は禁忌に近い慎重判断となります。


7. なぜエストロゲンで血栓リスクが上がるのか

エストロゲンの作用

  • 凝固因子(VII, VIII, X, フィブリノーゲンなど)↑
  • 抗凝固因子(プロテインSなど)↓
  • 血小板凝集の亢進
  • 静脈血流の停滞要因(むくみ等)
  • 血管内皮細胞への影響

これらが組み合わさり、静脈血栓症 → 肺塞栓 → 死に至るリスクが存在するため、既往歴あり患者は禁忌です。


8. 禁忌に該当する場合の代替避妊法

エストロゲン含有ピルは不可

マーベロン、ヤーズ、ロキシドロジェノン+EEなどはすべて禁忌。

検討可能な方法

  • IUD(避妊銅付加子宮内避妊器具)
    ホルモンを含まない
  • コンドーム
  • プロゲスチン単剤(ミニピル
    ※血栓リスクは低いが、既往歴では慎重判断(専門医管理)
    (抗リン脂質抗体症候群などでは不可)

結論として、血栓歴がある患者は、ホルモン避妊よりも非ホルモン避妊が推奨されます。


9. まとめ

禁忌項目が意味する患者像

  • 血栓や血栓による病気を現在持っている人
  • 過去に一度でも血栓・肺塞栓・脳梗塞・心筋梗塞などを起こした人
    は、マーベロンを使ってはいけない

理由は、エストロゲンにより血栓が再発し、命に関わる重篤な結果(肺塞栓、脳梗塞、心筋梗塞)に至るリスクがあるためです。この禁忌は「慎重に使う」ではなく、絶対禁忌です。