うつ病・双極性障害と性行動の関係
「うつ病(抑うつ)・双極性障害と性行動の関係」を、医学的研究と臨床的観点に基づいて体系的・中立的に解説します。結論として、これらの疾患は脳の報酬系・衝動コントロール・ホルモン・薬剤に影響し、性欲と性行動を増加させる場合と低下させる場合の両方があり得ます。
◆ 結論
うつ病=性欲と性行動は低下しやすい。
双極性障害=躁状態では性欲と性行動が過剰になりやすく、抑うつ状態では低下する。
つまり、双極性は「性欲の振れ幅が極端」になる可能性が高い。
◆ 1. “性欲”は脳の病態によって変化する
性欲は単なる興味や気分ではなく、以下の脳機能で決まります:
- ドーパミン(快楽・報酬)
- セロトニン(抑制・安定)
- ノルアドレナリン(興奮)
- 前頭葉(衝動コントロール)
- 皮質辺縁系(情動・欲求)
- ホルモン(テストステロン/エストロゲン)
- ストレス系(コルチゾール)
うつ病・双極性障害は、この回路のいくつかに直接影響するため、性欲や性行動が変化します。
◆ 2. うつ病(Major Depression)と性行動
● 傾向(典型)
- 性欲低下(libido低下)
- 性的関心の減少
- オーガズム困難
- 性行動頻度の低下
- パートナーへの興味の低下
臨床的には、これらは非常に一般的です。
なぜか?
● 脳の変化
うつ病では:
- セロトニン↓
- ドーパミン↓
- ノルアドレナリン↓
が起き、「報酬系が働かない」=快楽が感じにくい状態になっています。
その結果:
- 性的刺激に反応しない
- 意欲低下(アパシー)
- 満足感が得られない
- 「やりたい」という動機が消える
となります。
● 心理的要因も大きい
- 自尊心低下
- 体イメージの悪化
- 無力感
- 関係性の破綻
などが性欲を強く抑制します。
● 例外
一部で「うつ症状が強い時に衝動的な性行動が増える」ケースがあります。
その理由は:
- 自己価値の補償行動
- 寂しさや孤独の解消
- 一時的な快感で苦痛を紛らわせる
- 過去のトラウマとの関係
- 境界例的な特徴の合併
など、生物学ではなく心理社会的要因が中心です。頻度は低く、典型例ではありません。
◆ 3. 双極性障害(Bipolar Disorder)と性行動
◆ 3-1. 躁状態(Mania / Hypomania)
結論:
性欲が極端に高まり、性行動が過剰になる可能性が高いです。
理由(脳のメカニズム)
躁状態では:
- ドーパミン↑↑
- ノルアドレナリン↑
- セロトニン低下による抑制解除
- 報酬系の過剰活性化
- 前頭葉の抑制(判断力低下)
が起こります。
つまり:
●「強い快感追求」+「ブレーキが効かない」
=衝動的な性行動につながります。
◆ 3-2. 躁状態に特徴的な行動
- 過度の性欲(hypersexuality)
- 複数のパートナー
- リスクの高い性行動
- 風俗・出会い系の利用増加
- 不倫・突然の関係開始
- コンドーム不使用など危険行為
- 自信過剰(自分が魅力的と錯覚)
- 性的衝動の制御困難
これらは**「その人の人格ではなく、脳状態の結果」**です。
臨床ではしばしば認められる症状です。
◆ 3-3. 躁状態の心理的背景
- 自尊感情の異常な高まり
- 自分が特別だという万能感
- 他者の好意を過大評価
- 社会的評価への過度な欲求
- 恋愛が自己確認になる
などが合わさり、恋愛・性行為が自分の価値証明の手段になることもあります。
◆ 3-4. 抑うつ状態(双極性のうつ)
双極性の抑うつ期は、うつ病とほぼ同じで、
- 性欲低下
- 性行動低下
- 無快楽症(anhedonia)
が認められます。
つまり、躁期と抑うつ期で性欲が両極端になるのが特徴です。
◆ 4. 薬(治療薬)の影響
● 抗うつ薬(SSRI/SNRI)
- セロトニン↑ → 性欲低下
- オーガズム困難
- 勃起不全(男性)
- 膣感受性の低下(女性)
副作用として性機能障害が非常に多いです。
● 気分安定薬(リチウム等)
- 性欲低下傾向
● 抗精神病薬(ドーパミン抑制)
- 性欲低下
- プロラクチン増加 → 性欲抑制
- 勃起・オーガズム問題
● 例外:ドーパミン作動薬
パーキンソン病治療薬などは性欲の過剰亢進(過剰性行動)を引き起こす事がある。
◆ 5. 双極性の“危険性”としての性行動
臨床で問題となるのは:
● リスクのある性行動
- 性感染症(STI/STD)
- 望まない妊娠
- 経済的問題(衝動的支出)
- 人間関係の崩壊
- パートナーへの影響
- トラウマの形成
など、社会的・身体的リスクが非常に高い。
本人に「判断している意識はある」ため、
周囲が理解できず、トラブルになることがあります。
しかし実際には、脳の抑制回路が機能不全になっている状態です。
◆ 6. “道徳の問題”ではない
重要なのは:
過剰な性行動は本人の意思や道徳観の問題ではなく、脳と神経伝達物質の問題である
という点です。
これを理解しないと、
「だらしない」「浮気」「淫乱」という社会的ラベルになり、治療が遅れます。
実際は医学的症状です。
◆ 7. 性行動が診断のヒントになることもある
精神科では、
- 性欲の変化
- 衝動的な性行動
- 複数の関係
- 社会的リスクを考慮しない行動
は、双極性障害の躁症状のサインとして評価されることがあります。
特に:
- 明るくなった
- 活動性↑
- 睡眠が減少
- 口数が増える
- 性的な積極性↑
- 無謀な行動
は診断の手がかりになります。
◆ 8. 実際の臨床像(簡潔に)
| 状態 | 性欲 | 性行動 |
|---|---|---|
| うつ病 | ↓ | ↓ |
| 双極性・躁 | ↑↑ | ↑↑(過剰・衝動的) |
| 双極性・抑うつ | ↓ | ↓ |
| 薬(SSRI等) | ↓ | ↓ |
| 薬(ドーパミン作動薬) | ↑ | ↑ |
つまり**双極性は“振れ幅の疾患”**と言えます。
◆ 9. “健康な性欲”との境界線
重要なのは以下:
●「高い性欲」と「躁状態の過剰性欲」は違う
健全な性欲:
- 文脈を理解
- リスク管理
- 合意が中心
- 持続的な自己尊重
躁状態の過剰性欲:
- 衝動的
- リスク無視
- 判断力欠如
- 自尊心の肥大
- 翌日後悔する行動
「後から本人が驚くレベル」の行動が躁状態では珍しくない。
◆ 10. なぜ双極性は性が強く影響するのか?
理由は脳の3つの機能が同時に変化するから:
- 衝動(衝動性)↑
- 快感(報酬系)↑↑
- ブレーキ(前頭葉)↓
この組み合わせは、
性行動を非常に強く刺激します。
◆ 11. 性行動がもたらす「二次的影響」
双極性の方は、躁状態の性行動によって:
- 自責感
- 罪悪感
- 社会的評価の低下
- 人間関係の破綻
- うつ状態の悪化
を経験することがある。
そのため、躁→社会問題→抑うつ悪化という負のループが起こります。
◆ 12. 最後にまとめ
■ うつ病
- 性欲↓
- 性行動↓
- 快楽が感じられない脳状態
■ 双極性
- 躁期:性欲↑↑、衝動性↑↑、リスク行動↑↑
- 抑うつ期:性欲↓、快楽感じない
- 薬剤の影響も大きい
要するに:
双極性は「性欲のコントロール問題」、うつ病は「性欲の喪失問題」
と言えます。
◆ 補足:重要な姿勢
このテーマは本人や周囲が自己否定や羞恥を感じやすい領域です。
しかしこれは倫理や人格ではなく、医学的・神経科学的問題です。
適切な治療や支援でコントロールは可能です。







