性欲亢進の神経メカニズム

「性欲亢進(Hypersexuality)の神経メカニズム」をまとめたものです。CSBD、薬剤性、躁状態、ホルモン性まで共通フレームで整理しています。


性欲亢進の神経メカニズム


① 全体像(中核コンセプト)

性欲亢進 =「欲求(Wanting)が過剰」+「抑制(Braking)が低下」+「報酬学習が過強化」

快感そのもの(Liking)が強いとは限らない点が重要。


② 正常な性欲制御回路(基準状態)

性刺激(視覚・想像・触覚)
   ↓
視床下部(性反応の起点)
   ↓
腹側被蓋野 VTA(ドーパミン生成)
   ↓
側坐核 NAcc(欲求・動機づけ)
   ↓
前頭前皮質 PFC(抑制・判断)
   ↓
行動選択(する/しない)
  • ドーパミン:欲求を生む
  • 前頭前皮質:ブレーキ
    → バランスが保たれている

③ 性欲亢進時に起きている3つの異常


【A】ドーパミン報酬系の過活動(Wanting暴走)

VTA → NAcc のドーパミン放出 ↑↑

結果:

  • 性刺激への過敏化
  • 「したい」「求めたい」が止まらない
  • 性的思考が頭から離れない

※ 快感(満足感)が強いとは限らない


【B】前頭前皮質(抑制系)の機能低下

PFC(判断・抑制) ↓↓↓

原因:

  • ドーパミン過剰
  • アルコール・薬剤
  • 睡眠不足
  • 躁状態

結果:

  • リスク評価低下
  • 「やめよう」が効かない
  • 衝動行動(性・ギャンブル・買い物)

【C】報酬学習の過強化(依存的ループ)

性行動
 ↓
一時的ドーパミン上昇
 ↓
「楽になる」という記憶固定
 ↓
ストレス・不安時に再検索
 ↓
性行動に逃避

→ 性行動=感情調整手段になる


④ 「Wanting」と「Liking」の乖離(最重要)

Wanting(欲求)   :ドーパミン ↑↑
Liking(満足感) :エンドルフィン ↓

結果:

  • やっても満たされない
  • 回数・刺激を増やす
  • 行動が止まらない

CSBD・薬剤性・躁状態すべてで共通。


⑤ ホルモンによる神経回路ブースト

● 性ホルモン × ドーパミン

テストステロン / エストロゲン ↑
   ↓
側坐核のドーパミン感受性 ↑
   ↓
性刺激への反応過剰
  • 排卵期(エストロゲン↑)
  • ステロイド使用
  • 軽躁状態

で顕著。


⑥ 状態別:神経メカニズムの違い(要点)

● 薬剤性ハイパーセクシュアリティ

外因性ドーパミン刺激 ↑
→ 急激なWanting暴走
→ 中止・減量で改善

● 躁状態(双極性障害)

気分高揚+睡眠低下
→ ドーパミン持続高値
→ 抑制崩壊

性欲以外の衝動行動も増える。


● CSBD(強迫的性行動症)

慢性的ドーパミン感受性変化
+
習慣化した報酬学習
  • 慢性
  • 自己強化ループ
  • 行動パターンが固定

⑦ なぜ「理性」で止められないのか?

理由:

  • 問題は「意思」ではなく
    神経回路の優先順位異常
本能系(報酬)> 理性系(抑制)

前頭前皮質が「止めたい」という命令を出しても報酬回路が上書きする。


⑧ 回復の神経学的方向性(簡潔)

回復=逆操作:

  • ドーパミン急刺激を減らす
  • 新規性・過剰刺激を遮断
  • 前頭前皮質を回復させる
  • 報酬源を分散させる
  • 感情調整を性以外に再学習

(=行動療法・薬物調整)


まとめ

性欲亢進とは、快感が強い状態ではなく「欲求回路が暴走し、抑制回路が効かなくなった脳状態」である。