八味地黄丸

■ 八味地黄丸(はちみじおうがん)とは

八味地黄丸は、加齢や慢性的な疲れからくる足腰のだるさ・頻尿・排尿困難・冷え・のぼせなどを改善する代表的な滋養強壮系の漢方薬です。
古典『金匱要略(きんきようりゃく)』に記載された「腎虚(じんきょ)」を補う処方で、体のエネルギーの源である「腎(じん)」を温めて元気を回復させることを目的としています。


■ 構成生薬(8種類)

生薬名 主な作用
地黄(じおう) 血を補い、腎を養う。体の基本的な活力を支える中心生薬
山茱萸(さんしゅゆ) 体内のエネルギーを保ち、老化を防ぐ
山薬(さんやく) 消化機能を助け、体力を養う
茯苓(ぶくりょう) むくみを改善し、代謝を整える
牡丹皮(ぼたんぴ) 血行をよくし、のぼせや炎症を鎮める
沢瀉(たくしゃ) 余分な水分を排出して、むくみや頻尿を改善
桂皮(けいひ) 体を温め、冷えを改善
附子(ぶし) 強力に体を温め、冷えや倦怠感を改善

■ 効能・効果(日本薬局方などの記載)

  • 腰痛・下肢の冷え・しびれ
  • 排尿困難・頻尿・夜間尿・残尿感
  • 疲れやすい・四肢の冷え
  • 手足のほてり・のぼせ
  • 高齢者の体力低下・老化防止

■ 適する体質の特徴

  • 中年以降、または慢性的に体力が落ちている
  • 腰や膝がだるい・冷える
  • 頻尿や夜間尿が増えている
  • 足は冷えるのに、顔がのぼせやすい
  • 乾燥傾向で、喉の渇きがある

このような「腎陽虚(じんようきょ)」――つまり体のエネルギーと温める力が不足しているタイプに用いられます。


■ 現代的な臨床応用

  • 前立腺肥大排尿障害の改善
  • 糖尿病性末梢神経障害の補助治療
  • 腰痛・坐骨神経痛の慢性型
  • 加齢による筋力低下・倦怠感の改善
  • 冷えのぼせ(手足の冷え+顔のほてり)に対しても有効
  • ED(勃起機能低下)に用いられることもあります(腎虚由来の場合)

■ 注意点

  • 体力があり、のぼせやすい・口が乾きやすい人には合わないことがあります。
  • 高血圧や浮腫が強い人では悪化する場合もあるため、服用前に医師相談が必要です。
  • 附子(ぶし)を含むため、心疾患・高熱時には注意が必要です。

■ 類似処方との比較

処方名 主な特徴 体質傾向
八味地黄丸 腎陽を温め、冷え・頻尿・腰痛を改善 冷え・疲れ・高齢者向き
六味地黄丸 体を潤し、のぼせやほてりを改善 比較的若い人・熱体質
牛車腎気丸 八味地黄丸+牛膝・車前子(利尿・血行促進) 足腰のだるさ・しびれ・糖尿病性神経障害に
真武湯 冷え・下痢・めまい・むくみに 冷え+消化機能低下タイプ

■ まとめ

  • 八味地黄丸は「腎の力」を補って体を温める、老化・冷え・排尿トラブルに効く代表的な処方。
  • 中高年の体力低下、腰痛、頻尿、ED、冷えのぼせに幅広く使われる。
  • 現代では「老化予防の漢方」として、六味地黄丸と並び最も基本的な腎系処方の一つです。