十味敗毒湯

■ 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)とは

十味敗毒湯は、皮膚の化膿や湿疹、にきび、じんましんなど、皮膚の炎症や化膿性疾患に広く使われる漢方薬です。名前の通り、「十種類の生薬」で身体にこもった毒(熱や炎症)を排出することから「十味敗毒湯」と呼ばれます。江戸時代の医師・華岡青洲(はなおかせいしゅう)が、日本人の体質に合わせて作った和製の漢方処方です。そのため、日本人の皮膚トラブル(湿疹やにきび)に特に合いやすいといわれています。


■ 構成生薬(10種類)

生薬名 主な作用
桜皮(おうひ) 抗炎症・抗菌作用。皮膚の腫れやかゆみを抑える
柴胡(さいこ) 熱を下げ、炎症を鎮める
川芎(せんきゅう) 血行を促進し、皮膚の修復を助ける
樸樕(ぼくそく) 皮膚の化膿・腫れを鎮める
防風(ぼうふう) 皮膚のかゆみを抑える。体表の邪気を払う
荊芥(けいがい) 皮膚炎の熱や赤みを鎮める
茯苓(ぶくりょう) 余分な水分を排出し、むくみを改善
甘草(かんぞう) 炎症を抑え、薬全体の調和をとる
桔梗(ききょう) のど・皮膚の炎症を鎮め、膿を排出しやすくする
生姜(しょうきょう) 胃腸を温め、薬の吸収を助ける

■ 効能・効果(日本薬局方などの記載)

  • 化膿性皮膚疾患(にきび、吹き出物、毛嚢炎)
  • 湿疹・皮膚炎
  • じんましん
  • おでき(癰・疔)
  • 中耳炎やリンパ節炎の初期など(炎症を伴う疾患)

■ 適する体質の特徴

  • 体力は中程度
  • 顔や体ににきび・吹き出物・湿疹が出やすい
  • 皮膚が赤くなりやすい、化膿しやすい
  • 体に熱がこもりやすい
  • 食べすぎや脂っこいものを好む

つまり、「体内に熱と湿(炎症と余分な水分)がたまっているタイプ」の皮膚トラブルに適しています。


■ 現代的な臨床応用

  • にきび(特に赤く化膿したタイプ)
  • アトピー性皮膚炎(急性期)
  • 湿疹や皮膚炎の再発防止
  • 慢性中耳炎・リンパ節炎の補助治療
  • 化膿を伴う皮膚感染症の抗生物質との併用(医師管理下)

■ 注意点

  • 体力が弱く、冷えが強い人には合わないことがあります。
  • 炎症が長引く慢性タイプ(乾燥してかゆみが強い場合)では、消風散(しょうふうさん)などの別処方が適することもあります。
  • 効果が出るまで数日〜数週間かかることがあります。

■ 類似処方との比較

処方名 主な対象 特徴
十味敗毒湯 化膿性皮膚炎・にきび 赤み・熱感がある湿疹に適す
消風散 かゆみ・乾燥性湿疹 じんましんやアトピーにも
黄連解毒湯 強い熱・炎症 顔の赤み・高血圧傾向に
温清飲 血の滞り+炎症 慢性湿疹やくすみ肌に

■ まとめ

  • 十味敗毒湯は「皮膚に熱や炎症がこもった状態」を冷まして、膿や赤みを取り除く漢方薬。
  • 日本人の皮膚体質に合わせて作られた処方で、にきび・湿疹・おできに広く用いられる。
  • 体質改善にも役立つため、慢性的な皮膚トラブルのベース治療にも適しています。