マーベロンの禁忌: 手術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内および長期間安静状態の患者
マーベロンの添付文書に記載されている 「手術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内および長期間安静状態の患者」 がなぜマーベロン禁忌になるのかをわかりやすく解説します。
■この禁忌項目の重要な本質
この禁忌は一言でまとめると、
血液が固まりやすくなり血栓症が発生しやすい時期に、エストロゲンを投与すると血栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症など)のリスクが危険なレベルに高まるため絶対に使用できない
という意味です。
マーベロンはエチニルエストラジオール(エストロゲン)を含むため、凝固促進作用があります。そのため、元々血栓ができやすくなる状態(術前・術後・産後・安静)は「血栓の二重ブースト」となり、大きなリスクになります。
■なぜ血栓ができやすいのか
人の身体は以下の環境では「血を固まりやすくする仕組み」を持っています。
● 外科手術の前後
- 手術は出血の危険があるため、体が防御反応として凝固因子を増やす
- 手術後は安静・臥床となるため、下肢の血流が停滞
→ 深部静脈血栓(DVT)のリスクが高まる
これは医学的に Virchowの三徴 として説明されます:
- 血流停滞
- 血液凝固能亢進
- 血管内皮障害
手術はこの三つの条件すべてを満たすため、血栓が非常にできやすくなります。
● 産後(4週以内)
妊娠・出産は自然に「血が止まりやすい体(高凝固状態)」になります。
理由:
- 出産時に出血が起きるため、防御反応として凝固因子が増える
- 妊娠中は血液量や凝固系が変化し、線溶(血栓を溶かす作用)は抑制
- 産後は身体が回復中で血流が変化
- 安静・授乳などで長時間同じ姿勢になることが多い
→ 出産後は特に4〜6週間が血栓症のピーク期間とされます。
この時期は医学的に「Hypercoagulable state(凝固亢進状態)」と呼ばれ、エストロゲン投与は禁忌です。
● 長期間の安静状態
例:
- 骨折でギプス固定され動けない状態
- 長期入院・寝たきり
- 重症の病気で臥床
- 長距離移動で動けない(これも軽度のリスク)
安静で動かない=血流が停滞
特に下肢静脈の血流が遅くなるため血栓ができます。
※特に危険:下肢にできた血栓が剥がれ、肺に流れて詰まる肺塞栓症。
■マーベロンによる危険性の「足し算」
上記のような状態では、すでに凝固系がオンになっている状態です。
そこにマーベロンのエストロゲン作用が加わると:
- 凝固因子増加(II, VII, VIII, X, フィブリノゲン)
- 抗凝固因子低下(AT、プロテインS)
- 血小板活性化
- 線溶抑制
→ 血液が異常に固まりやすくなり、血栓症の発生が爆発的に高まる。
特に 深部静脈血栓症(DVT)→肺塞栓症 の流れが最も致命的です。
欧州などでは「術後間もないピルユーザーの肺塞栓死亡例」が歴史的にあり、禁忌の原因となりました。
■禁忌期間の意味
添付文書の期間は、こうした凝固亢進が続く期間を医学的に区切ったものです。
- 手術前4週以内
手術前は意図的に止血機能が高まる準備状態になる期間。 - 術後2週以内
侵襲からの回復期で、凝固亢進状態が強い。 - 産後4週以内
妊娠後の高凝固状態のピークを避けるため。 - 長期間安静状態
血流停滞による血栓形成リスクが高い。
この期間は世界的なガイドライン(WHO Medical Eligibility Criteria)や日本産科婦人科学会ガイドラインでも同様の扱いです。
■「禁忌」の臨床判断
添付文書は「期間」を示していますが、実臨床では以下の判断をします:
1)禁忌
- 開腹・開胸手術
- 下肢手術(特に整形外科)
- 癌手術
- 術後2週間は絶対禁忌
- 産後4週間は禁忌(特に帝王切開はさらにリスク増)
2)慎重判断
- 軽微な手術(歯科、局所麻酔下の手術)
- 日帰り手術で歩行できる症例
ただし安全のため多くの場合は一時中止が推奨されます。
■ピルの休薬と手術
手術予定がある人は、
手術の4週間前にピルを中止
が一般的な推奨です(VTE予防のため)。
その間の避妊は
- コンドーム
- 子宮内避妊具
などで代替します。
■まとめ(短く要点)
この禁忌は:
血栓症が起きやすい時期と環境を示しており、その期間にエストロゲンを使うと危険な血栓が起きる可能性が高いため、マーベロンは絶対に使用してはいけない
という意味です。
特に:
- 手術前4週以内
- 術後2週以内
- 産後4週以内
- 長期安静
→ この時期は体が自然に凝固亢進状態になるため、ピルの使用により 深部静脈血栓症 → 肺塞栓症 → 死亡 につながるリスクがある。







