排卵カスケードを分子レベルで比較

排卵カスケードを分子レベルで比較し、レボノルゲストレル(LNG)とウリプリスタル(UPA)がどこに作用するかを整理します。


① 正常の排卵カスケード(分子レベル)

排卵は単なる「LH上昇」ではなく、以下の分子イベントの連鎖です。

Step 1:LHサージ

  • 下垂体からLH大量分泌
  • 卵胞顆粒膜細胞のLH受容体(LHR)活性化

Step 2:cAMPシグナル活性化

LH受容体 → Gsタンパク質 →
→ アデニル酸シクラーゼ活性化 → cAMP増加
→ PKA活性化


Step 3:転写因子活性化

LH刺激で誘導される主な分子:

  • EGR1
  • C/EBPβ
  • RUNX1
  • NR5A2

これらが排卵関連遺伝子を活性化。


Step 4:プロゲステロン産生

LH →
→ ステロイド合成酵素(CYP11A1等)活性化
→ プロゲステロン産生増加

プロゲステロンは:

顆粒膜細胞内のプロゲステロン受容体(PR)を活性化


Step 5:プロゲステロン受容体依存性イベント

PR活性化により:

  • ADAMTS1(卵胞壁分解酵素)
  • MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)
  • COX-2(PTGS2)
  • PGE2

が発現上昇


Step 6:卵胞壁分解 → 排卵

  • コラーゲン分解
  • 卵胞壁破裂
  • 卵子放出

② レボノルゲストレル(LNG)の作用部位

作用点

Step 1より前(LH分泌段階)

LNGは:

  • 視床下部のGnRH抑制
  • 下垂体LH分泌抑制

つまり:

LHサージを起こさせない


重要

LHサージが始まった後は:

  • すでにcAMP経路活性化済み
  • PR発現済み
  • 卵胞内プロゲステロン上昇中

→ LNGでは止められない


③ ウリプリスタル(UPA)の作用部位

作用点

Step 4〜5(プロゲステロン受容体レベル)

UPAは:

PR(プロゲステロン受容体)を拮抗

これにより:

  • ADAMTS1発現抑制
  • MMP誘導抑制
  • 卵胞壁分解阻害

重要ポイント

LHサージが起きていても:

  • PRが遮断されれば
  • 卵胞破裂が遅延する

つまり:

排卵カスケード後半を直接阻害


④ 分子レベル比較表

カスケード段階 LNG UPA
GnRH抑制
LHサージ抑制
cAMP活性化 × ×
プロゲステロン産生 × ×
PR活性 × ◎(遮断)
MMP誘導 ×
卵胞破裂阻止 △(LH前のみ) ◎(LH後でも)

⑤ なぜUPAはLH後でも効くのか

排卵には:

LHだけでなく
プロゲステロン受容体活性が必須

PRノックアウトマウスでは:

LHサージがあっても排卵しない

UPAはこのPR経路を止める。


⑥ LNGが効かない理由(LH後)

LHサージ後:

  • cAMP活性化済
  • PR発現済
  • 卵胞壁分解酵素発現開始

この段階では:LHを止めても意味がない


⑦ 本質的な違い(分子レベル)

LNG:

「排卵スイッチを押させない薬」

UPA:

「押された後の排卵装置を止める薬」


⑧ 臨床的帰結

  • LNG:排卵2日前までが勝負
  • UPA:排卵直前でも有効

これが:

  • 使用可能時間(72h vs 120h)
  • BMI影響差
  • 妊娠率差

につながっています。