マーベロンの禁忌: 血栓性素因のある女性

マーベロンの添付文書における 「血栓性素因のある女性」 の意味を、医学的な背景を含めて具体的に説明します。


■「血栓性素因のある女性」とは

マーベロンは、エチニルエストラジオール(エストロゲン)とデソゲストレル(プロゲスチン)を含む低用量経口避妊薬で、血栓症のリスクを上げる可能性がある薬剤です。

そのため、もともと 血が固まりやすい体質=血栓性素因(thrombophilia) を持つ女性では、血栓症(静脈血栓塞栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、脳梗塞など)が発生しやすくなるため 禁忌となっています。

つまり添付文書の「血栓性素因」とは、

遺伝的要因や病態により、血液凝固が過剰になり、通常より血栓ができやすい状態・体質

を指します。


■どのような人が該当するのか

以下は臨床上「血栓性素因」として扱われる代表例です:

① 遺伝性血栓性素因(先天性)

生まれつき血栓ができやすい体質を持つケースで、一般的に若年での血栓症発症が見られます。

代表的なもの:

  • アンチトロンビン(AT)欠乏症
  • プロテインC欠乏症
  • プロテインS欠乏症
  • 第V因子ライデン(Factor V Leiden)変異
  • プロトロンビン遺伝子変異 G20210A
  • MTHFR遺伝子異常による高ホモシステイン血症
  • 先天性凝固因子異常

これらは遺伝子異常により凝固と線溶のバランスが崩れ、自然と血栓が形成しやすくなります。

※日本ではFactor V Leidenやプロトロンビン遺伝子異常は欧米ほど多くありませんが、「プロテインS、C欠乏症」などは特に重要。


② 後天性血栓性素因(病気として発症)

生まれつきではなく、病気や免疫異常などで血栓素因が生じた状態:

代表例:

  • 抗リン脂質抗体症候群(APS)
    • 抗カルジオリピン抗体
    • ループスアンチコアグラント
    • 抗β2GPI抗体
  • SLE(全身性エリテマトーデスなどの膠原病)
  • ネフローゼ症候群
  • がん(悪性腫瘍)に伴う凝固異常
  • 骨髄増殖性疾患(真性多血症など)
  • 重度の肥満
  • 重度の高ホモシステイン血症

これらは免疫異常や炎症、凝固因子の増加などで、深部静脈血栓や動脈血栓が発生しやすくなります。


③ 臨床的に血栓性素因とみなす状況(既往がある場合)

「検査で証明されなくても、過去の経験から血栓性素因と推定される」場合も禁忌です:

  • 妊娠中・出産後の血栓症歴
  • 若年での血栓症発症歴
  • 原因不明の血栓症歴
  • 強い家族歴(親・兄弟姉妹が若い年齢で血栓症)
  • 過去の反復する流産(抗リン脂質抗体症候群の可能性)

この場合、明確な遺伝子検査結果がなくとも「血栓性素因」が存在するとみなします。


■なぜマーベロンでリスクが上がるのか

低用量ピルにはエストロゲンが含まれ、以下の作用があります:

  • 凝固因子(II, VII, VIII, X, fibrinogen)が増加
  • 抗凝固因子(AT、プロテインSなど)が低下
  • 血小板凝集が亢進
  • 線溶抑制(血栓を溶かす力が弱まる)

血液が固まりやすくなる

もともと血栓素因がある状態では、この効果と相乗して重度の血栓症が起こる危険があり、特に危険です。


■添付文書の意図

添付文書の:

「血栓性素因のある女性[血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある]」

という記載は、

  • 遺伝性・後天性の血栓症体質
  • 検査で確認されたもの
  • 医師が臨床的に血栓リスクが高いと判断したもの
  • 既往歴や家族歴から強く疑われるもの

すべてを含む「広い概念」です。

つまり「確定診断がない場合でも“血栓ができやすい可能性がある人”は禁忌」の意味です。


■一般患者の理解のポイント

日常診療で「血栓性素因がある」と判断されるのは以下:

  • 過去に血栓症になったことがある
  • 原因不明の血栓症(若い年齢)
  • 家族に血栓症が多い
  • SLEなどの膠原病
  • 検査でプロテインS欠乏などが見つかっている
  • 抗リン脂質抗体陽性

このような人はマーベロンが完全に禁忌になります。

逆に、

  • 血栓歴も家族歴もない
  • 膠原病がない
  • 特殊抗体がない

→ 血栓素因は「なし(通常は服用可能)」となります。


■追加情報

血栓性リスク評価の際は次が参考になります:

  • ISTH(国際血栓止血学会)分類
  • 抗リン脂質抗体検査
  • プロテインC/S、AT活性測定
  • ホモシステイン測定
  • 遺伝子検査(Factor V Leiden等)

ただしピル処方の際に、ルーチンで遺伝子検査をすることは一般的ではありません。臨床歴と危険因子評価が優先されます。


■まとめ

血栓性素因のある女性とは、遺伝的または後天的な理由で、血液が通常よりも固まりやすく血栓症が起きやすい体質の女性を指し、その場合マーベロンは血栓症を引き起こす危険が高いため禁忌となる、という意味です。