トリキュラーの禁忌:血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者
「トリキュラー(レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール)」の禁忌の中でも、血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者という項目は、命に関わる重大な副作用(血栓症)に直結するため、最も厳重に守るべき禁忌のひとつです。
1. 背景:トリキュラーと血栓の関係
トリキュラーには以下の2成分が含まれます。
- エチニルエストラジオール(エストロゲン)
- レボノルゲストレル(プロゲステロン)
このうち、特にエストロゲン(エチニルエストラジオール)が血液を凝固しやすくする作用(凝固能亢進)をもつことが知られています。
エストロゲンが血栓を作りやすくする理由
エストロゲンは肝臓で次のような変化を起こします:
- 凝固因子(第VII・VIII・X・フィブリノーゲンなど)を増加させる
- 抗凝固因子(アンチトロンビンIIIなど)を減少させる
- 血液粘度が上昇し、血小板が活性化する
結果として、
→ 血液が固まりやすくなる(=血栓ができやすい状態)になります。
2. 血栓症の代表的な疾患とその危険性
| 疾患名 | 発生部位 | 主な症状 | 致死性 |
|---|---|---|---|
| 血栓性静脈炎(深部静脈血栓症:DVT) | 主に下肢静脈 | 脚の腫れ、痛み、熱感、赤み | ★ |
| 肺塞栓症(PE) | 肺動脈 | 呼吸困難、胸痛、失神、突然死 | ★★★★ |
| 脳血管障害(脳梗塞など) | 脳血管 | 手足の麻痺、言語障害、意識障害 | ★★★ |
| 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症) | 心臓の冠動脈 | 胸痛、息切れ、不整脈、ショック | ★★★★ |
いずれも、血栓(血の塊)が血管を詰まらせることにより発生します。
命に関わる可能性が高いため、既往がある場合は絶対に使用してはいけません。
3. 「既往歴のある患者」とは?
この禁忌は、「今現在病気がある人」だけでなく、過去に発症したことがある人も含みます。
なぜなら、過去に血栓を起こしたことがある人は:
- 血管や弁の損傷が残っている
- 遺伝的または体質的に血栓を作りやすい
- 再発リスクが高い
ため、ホルモンによる凝固促進で再発の危険が極めて高いからです。
4. 特に注意すべき危険因子
血栓症は、以下の要因が重なるとさらにリスクが上がります。
| リスク因子 | 解説 |
|---|---|
| 喫煙 | ニコチンが血管を収縮させ、血小板を活性化する |
| 肥満 | 下肢静脈うっ滞・高凝固状態を引き起こす |
| 高血圧・糖尿病・高脂血症 | 動脈硬化を促進し、血流障害を助長 |
| 長期安静・手術後・長距離飛行 | 静脈の血流停滞(エコノミークラス症候群) |
| 家族歴 | 遺伝性血栓性素因(プロテインC/S欠損、ATIII欠損など) |
| 40歳以上 | 加齢により血管弾性低下・凝固能上昇 |
これらの因子がある場合、たとえ既往歴がなくても慎重投与(または禁忌に準ずる)と判断されることがあります。
5. 禁忌の理由(まとめ)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 禁忌対象 | 血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患またはその既往 |
| 禁忌理由 | エストロゲンにより血液凝固が促進し、再発・悪化の危険があるため |
| 危険性 | 脳梗塞・肺塞栓・心筋梗塞など致死的な合併症 |
| 既往歴も含む理由 | 体質・血管損傷・凝固系異常が残存しやすいため再発しやすい |
| 医学的対応 | 避妊・月経調整目的であっても他の方法(非ホルモン療法)を選択 |
6. 臨床現場での判断例
| 状況 | トリキュラー使用可否 | 補足 |
|---|---|---|
| 過去にDVTあり(完治) | 禁忌 | 再発リスク高 |
| 心筋梗塞の既往あり | 禁忌 | 冠動脈疾患既往 |
| 一過性脳虚血発作(TIA)あり | 禁忌 | 将来脳梗塞リスク |
| 肥満+喫煙(40歳以上) | 慎重投与または禁忌 | 医師判断で中止を検討 |
| 家族に血栓症あり(本人は未発症) | 遺伝性素因の可能性あり、検査後判断 |
7. まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 禁忌の文言 | 血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者 |
| 原因 | エチニルエストラジオールが凝固因子を増加させ、血栓を形成しやすくする |
| 結果 | 脳梗塞、肺塞栓、心筋梗塞などの重篤合併症を誘発 |
| 対象範囲 | 現在罹患中だけでなく、過去に発症したことがある場合も含む |
| 医学的対応 | ホルモン避妊薬は使用せず、銅IUDや他の非ホルモン避妊法を選択 |








