マーベロンの禁忌:妊娠中に黄疸、持続性そう痒症又は妊娠ヘルペスの既往歴のある患者
マーベロン(デソゲストレル/エチニルエストラジオール)における禁忌:「妊娠中に黄疸、持続性そう痒症又は妊娠ヘルペスの既往歴のある患者」 が何を意味するのかを、病態背景と添付文書の意図に基づいて詳しく解説します。この禁忌は、一般的な血栓症リスクの項目とは異なり “妊娠中にホルモン影響で誘発される特殊な皮膚・肝症状の再発リスク” を考慮したものです。
■禁忌の原文
妊娠中に黄疸、持続性そう痒症又は妊娠ヘルペスの既往歴のある患者
[症状が再発するおそれがある。]
■この禁忌が示す患者とは?
下記の病態を 妊娠中に経験した女性が対象です:
- 妊娠関連黄疸
- 妊娠に伴う持続性掻痒症(妊娠性掻痒症)
- 妊娠ヘルペス(Herpes gestationis / 妊娠性疱疹)
これらは、一般の肝炎や単純ヘルペスとは異なり、
妊娠によるホルモン変化が引き金となって発症する特殊な病態です。
つまり、この禁忌は 「妊娠により誘発される“ホルモン感受性疾患”の既往がある人には、ピルで同様のホルモン刺激が再発を起こす可能性があるため禁止」という意味になります。
■それぞれの病態を理解する
① 妊娠中の黄疸(妊娠性黄疸)
●病態
妊娠中に胆汁うっ滞が起き、黄疸や掻痒症状が出る病態です。
代表的なものは 妊娠性肝内胆汁うっ滞(Intrahepatic cholestasis of pregnancy:ICP) です。
背景:
- エストロゲンおよびプロゲステロンが胆汁の流れを阻害
- 肝細胞内で胆汁酸が蓄積
- 血中ビリルビン上昇 → 黄疸
症状:
- 黄疸
- 強い掻痒感(特に夜間)
- 胆汁酸上昇
重要なのは、エストロゲン濃度が上がると胆汁うっ滞が悪化する点です。
→ マーベロンは 合成エストロゲンを含むため再発の危険がある。
② 持続性そう痒症(妊娠性掻痒症)
妊娠後期に発症する強い掻痒症で、明確な発疹を伴わないこともあります。
原因には 胆汁うっ滞およびホルモン変化が深く関与します。
特徴:
- 非アトピー性皮膚炎
- 夜間の掻痒による不眠
- 妊娠終了で自然に治癒
このタイプの掻痒症も ホルモンが増えると症状が誘発・増悪しやすいため、
エストロゲン含有ピルで 再発リスクがあると考えられます。
③ 妊娠ヘルペス(妊娠性疱疹・Herpes gestationis)
名前に「ヘルペス」とありますが 単純ヘルペスウイルスとは無関係です。
正しい病態は妊娠性疱疹(Pemphigoid gestationis)という 自己免疫性水疱性疾患です。
背景:
- 妊娠による免疫変化が皮膚自己抗体を誘発する
- 皮膚基底膜に対する自己抗体(BP180)により水疱形成
症状:
- 強い掻痒
- 緊張性水疱
- 腹部から手足へ拡大
発症は妊娠期特有であり、産後は軽快するが、ホルモン刺激で再燃することがあるとされています。
→ ピルは 妊娠と似たホルモン環境を人工的に作るため再発リスク。
■なぜマーベロンが禁忌なのか(病態の共通点)
上記3つに共通するポイントが次です:
- 妊娠によってホルモン濃度が大幅に上昇することで誘発される
- 主な責任因子が エストロゲン
- 過去に発症した人は、エストロゲン刺激で 再発しやすい遺伝的・免疫的素因がある
- ピルは エストロゲンを外部から投与するため妊娠状態に類似する
つまり 妊娠で誘発された病気は、低用量ピルでも起きうるということです。
特に 妊娠性肝内胆汁うっ滞は、低用量ピルでも再発が報告されています。
■添付文書の意図(ポイントの整理)
添付文書がこの項目を禁忌としている理由は:
●“妊娠=大量のホルモン”の影響を受けた疾患は再発の危険性がある
- 過去の経歴が 明確なリスク因子になる
- 「一度起きた人は、また起きやすい」
●ピルでも妊娠ほどではないがホルモン刺激が起きる
- 特に肝臓・胆汁代謝・免疫異常に影響
●再発すると健康上の重大な影響がある
例:
- 高度の掻痒による睡眠障害
- 肝機能障害
- 水疱性皮膚疾患の再燃
妊娠性疾患は一般的なアレルギーではないため 再発時の治療が難しい場合がある点も含まれます。
■どのくらいのリスクがあるのか
研究データでは 妊娠性肝内胆汁うっ滞患者の15〜60%がエストロゲン製剤で再発するとされます(報告に幅あり)。
特に遺伝的背景(ABCB11、ATP8B1など)を持つ場合は再発率が高い。
妊娠性疱疹についても ホルモンや経口避妊薬での再燃例が複数報告されています。
→ 危険性は十分に臨床的に認識されている事項です。
■この禁忌項目の対象になる症例例
該当する具体的な人の例:
- 妊娠中に黄疸が出て医療機関で治療歴がある
- 妊娠後期に全身のひどい掻痒で診断された
- 妊娠中に「妊娠性疱疹(妊娠ヘルペス)」と言われた
- 妊娠中のみ症状が現れ、産後に消失した
特に、通常は妊娠以外で発症しない疾患なので、病名がついていればほぼ該当します。
■「黄疸」「掻痒」はありふれた症状では?
重要な点は “妊娠中に出現した”という因果関係です。
- 肝炎による黄疸
→ 別の疾患、禁忌ではない場合もあり - 普通の湿疹やアトピー
→ それは禁忌対象ではない
この禁忌が指すのは 妊娠ホルモンによって誘発された特殊病態の既往です。
■患者説明の例(簡潔な言い方)
妊娠中に出た黄疸や強い痒み、妊娠性疱疹などは女性ホルモンが原因で起きることがあり、ピルでも同じようなホルモン刺激があるため、症状が再発する可能性があります。そのため、これらの病気を経験したことがある方はマーベロンを使うことができません。
■まとめ
●「妊娠中に黄疸、持続性そう痒症、妊娠ヘルペスの既往ある患者」とは?
- 妊娠をきっかけに発症した肝内胆汁うっ滞、重度掻痒症、妊娠性疱疹の既往がある女性
●なぜマーベロンが禁忌か?
- これらの疾患は エストロゲン刺激で誘発・悪化する
- マーベロンには 合成エストロゲンが含まれる
- 再発の危険性が高いため
●重要な本質
- 「一度妊娠で起きた人は、ピルでも再発する」
- 黄疸や掻痒の“原因”がホルモンである場合のみ禁忌






