セント・ジョーンズ・ワートで緊急避妊薬の効果が弱まる可能性がある理由
セント・ジョーンズ・ワートを含むサプリメントや健康食品は、緊急避妊薬(アフターピル)の効果を弱める可能性があります。
「健康食品なのに、なぜ薬の効果に影響するのか」と疑問に思う人もいるかもしれません。その理由は、セントジョーンズワートが肝臓などに存在する薬物代謝酵素の働きを強め、緊急避妊薬の有効成分が通常より速く分解される可能性があるためです。
結論:緊急避妊薬が通常より速く代謝される可能性があります
セント・ジョーンズ・ワートは、緊急避妊薬を直接無効化するものではありません。
しかし、薬物代謝酵素を誘導することにより、レボノルゲストレルなどの有効成分が体内で速く代謝・排出される可能性があります。
その結果、次のような流れで緊急避妊効果が弱まるおそれがあります。
flowchart TD
A["セント・ジョーンズ・ワートを摂取"] --> B["薬物代謝酵素の働きが強まる"]
B --> C["緊急避妊薬の代謝が速くなる"]
C --> D["有効成分の血中濃度が低下する可能性"]
D --> E["排卵を遅らせる作用が弱まるおそれ"]
セント・ジョーンズ・ワートを摂取したからといって、必ず避妊に失敗するわけではありません。一方で、どの程度効果が低下するかを個人ごとに正確に予測することはできません。
セント・ジョーンズ・ワートとは
セント・ジョーンズ・ワートは、和名を「セイヨウオトギリソウ」といい、英語では「St. John’s Wort」、学名では「Hypericum perforatum」と表記されます。
海外では気分の落ち込みやストレスなどを目的としたハーブ製品として広く利用されています。日本では医薬品ではなく、サプリメント、健康食品、ハーブティーなどに配合されていることがあります。
製品の原材料表示では、次のような名称が使われることがあります。
- セント・ジョーンズ・ワート
- セントジョーンズワート
- セイヨウオトギリソウ
- St. John’s Wort
- Hypericum perforatum
- ヒペリクム
- オトギリソウエキス
商品名だけでは分からないことがあるため、パッケージの原材料名や成分表示を確認する必要があります。
「薬物代謝酵素を誘導する」とは
薬物代謝酵素とは、体内に入った薬を分解し、体外へ排出しやすい形へ変える酵素です。代表的なものに、肝臓や腸管に存在するCYP3A4があります。
「酵素を誘導する」とは、酵素の働きを弱めることではなく、薬を分解する能力を高めることを意味します。
通常よりも多くの薬物代謝酵素が働くようになると、同じ量の薬を服用しても、有効成分が速く分解される可能性があります。
その結果、次のような変化が起こり得ます。
- 有効成分の血中濃度が低くなる
- 薬が体内にとどまる時間が短くなる
- 期待していた薬の作用が弱くなる
- 効果が続く時間が短くなる可能性がある
セント・ジョーンズ・ワートは、薬そのものと混ざって作用を消すのではありません。体が薬を処理する速度を変えることで、間接的に薬の効果へ影響します。
レボノルゲストレルの効果が弱まる仕組み
レボノルゲストレルは、日本で緊急避妊に使用されている黄体ホルモン製剤です。
避妊措置を講じなかった性交や避妊に失敗した性交の後、できるだけ早く服用することにより、主に排卵を抑制または遅らせます。
しかし、セント・ジョーンズ・ワートによってレボノルゲストレルの代謝が促進されると、血液中のレボノルゲストレル濃度が通常より低くなる可能性があります。
そのため、排卵を抑制・遅延させるために必要な作用が十分に得られず、緊急避妊効果が弱まるおそれがあります。
PMDAの審査資料でも、セイヨウオトギリソウ含有食品の代謝酵素誘導作用によってレボノルゲストレルの代謝が促進され、効果が減弱する可能性があると説明されています。
ウリプリスタールにも影響する可能性があります
海外で緊急避妊薬として使用されているウリプリスタール酢酸エステルも、主にCYP3A4で代謝されます。
代表的な海外商品名は次のとおりです。
- ella
- ellaOne
- ウリプリスタール30mg製剤
セント・ジョーンズ・ワートによってCYP3A4が誘導されると、ウリプリスタールの血中濃度も低下する可能性があります。
海外の製品情報では、セント・ジョーンズ・ワートなどのCYP3A4誘導物質を使用中、または過去4週間以内に使用した場合、ウリプリスタールとの併用は推奨されていません。
なお、ウリプリスタール酢酸エステルを有効成分とする緊急避妊薬は、日本国内では承認されていません。
どのくらい効果が弱まるのですか?
セント・ジョーンズ・ワートによって緊急避妊効果がどの程度低下するかについて、すべての製品や摂取条件に共通する正確な数値はありません。
影響の程度は、次の条件によって変わる可能性があります。
- 製品に含まれるセント・ジョーンズ・ワートの量
- 1回の摂取量
- 摂取回数
- 継続している期間
- 最後に摂取した日時
- 緊急避妊薬の種類
- 性交から緊急避妊薬服用までの時間
- 排卵の時期
- 個人の代謝能力
英国の医薬品規制当局は、別のCYP3A4誘導薬でレボノルゲストレルの血中曝露量が約50%低下したデータを紹介しています。
ただし、この約50%という数値を、そのままセント・ジョーンズ・ワートの影響として当てはめることはできません。セント・ジョーンズ・ワートによる低下率は、製品や摂取条件によって異なると考えられます。
服用後の症状から効果を判断できますか?
症状だけでアフターピルが効いたかどうかを判断することはできません。
服用後には、次のような症状が現れることがあります。
- 吐き気
- 頭痛
- 眠気
- 倦怠感
- 下腹部痛
- 不正出血
- 次の月経が早まる、または遅れる
これらの症状があっても、緊急避妊に成功した証拠にはなりません。反対に、副作用が何もなくても、薬が効いていないという意味ではありません。
また、服用後に出血があった場合も、それだけで妊娠していないとは判断できません。
1回だけ摂取した場合も問題になりますか?
一般に、薬物代謝酵素の誘導は、セント・ジョーンズ・ワートを継続的に摂取している場合に問題になりやすいと考えられます。
しかし、健康食品やサプリメントは製品ごとに含有量が異なります。「1回だけなら影響しない」「少量なら問題ない」と判断できる明確な基準はありません。
1回だけの摂取であっても、次の情報を医師または薬剤師に伝えてください。
- 商品名
- 成分表示
- 摂取量
- 摂取した日時
- 継続摂取の有無
商品パッケージや成分表示の写真があると、医療機関で確認しやすくなります。
中止しても影響がすぐになくなるとは限りません
セント・ジョーンズ・ワートの摂取を中止しても、誘導された薬物代謝酵素の働きが直ちに元へ戻るとは限りません。
海外の医薬品規制当局や製品情報では、薬物代謝酵素誘導作用が中止後も続く可能性を考慮し、過去4週間以内の使用歴を確認しています。
そのため、「昨日やめたから問題ない」「1週間前にやめたので申告しなくてよい」とは判断せず、過去の摂取歴も医療機関へ伝える必要があります。
セント・ジョーンズ・ワートを摂取していた場合の対応
緊急避妊薬が必要な場合は、セント・ジョーンズ・ワートを摂取していたことを理由に、医療機関への相談を遅らせないでください。
次のように対応してください。
- できるだけ早く医療機関または薬剤師へ相談する
- セント・ジョーンズ・ワートの摂取歴を申告する
- 商品名、摂取量、摂取期間、最終摂取日時を伝える
- 服用できる緊急避妊薬やほかの方法について説明を受ける
- 自己判断で服用量を増やさない
- 異なる種類のアフターピルを自己判断で併用しない
緊急避妊薬は、性交から服用までの時間が重要です。サプリメントとの相互作用が心配な場合も、まず早急に相談することが優先されます。
2錠服用すれば効果を補えますか?
自己判断で追加服用してはいけません。
英国の医薬品規制当局は、過去4週間以内に肝薬物代謝酵素誘導物質を使用した人について、非ホルモン性の緊急避妊法を優先し、それを選択できない場合にレボノルゲストレル3mgを検討する対応を示しています。
ただし、これは海外のガイドラインに基づく対応です。日本国内で承認されている通常の緊急避妊用量はレボノルゲストレル1.5mgです。
服用量を増やす必要があるかどうかを、患者自身で判断することはできません。必ず医師または薬剤師の指示を受けてください。
よくある質問
ハーブティーでも影響しますか?
セント・ジョーンズ・ワートが含まれていれば、サプリメントだけでなくハーブティーや健康食品でも注意が必要です。含有量が不明な製品もあるため、原材料表示を確認してください。
服用後にセント・ジョーンズ・ワートを摂取してしまいました
直ちに緊急避妊薬が無効になったとは限りません。ただし、影響を自分で判定することはできないため、処方を受けた医療機関または薬剤師へ早めに連絡してください。
不正出血があれば薬が効いたということですか?
不正出血の有無では、緊急避妊の成否を判断できません。次の月経が予定より7日以上遅れた場合や、出血量が通常より著しく少ない場合は、妊娠検査を行い、産婦人科へ相談してください。
サプリメントをすぐ中止すれば大丈夫ですか?
中止後も薬物代謝酵素への影響が続く可能性があります。また、ほかの薬を服用している場合、セント・ジョーンズ・ワートの急な中止がその薬の血中濃度に影響することがあります。自己判断で調整せず、医師または薬剤師へ相談してください。
まとめ
セント・ジョーンズ・ワートで緊急避妊薬の効果が弱まる可能性があるのは、薬物代謝酵素の働きが強まり、有効成分が通常より速く分解されるためです。
重要なポイントは次のとおりです。
- セント・ジョーンズ・ワートはCYP3A4などの薬物代謝酵素を誘導する
- レボノルゲストレルの代謝が速まり、血中濃度が低下する可能性がある
- 排卵を抑制・遅延させる作用が弱まるおそれがある
- 影響の程度を個人ごとに正確に予測することはできない
- 中止後もしばらく影響が続く可能性がある
- 緊急避妊薬を自己判断で追加服用しない
- 摂取歴がある場合も、医療機関への相談を遅らせない
セント・ジョーンズ・ワートを含む製品を使用している場合は、商品名や成分表示が分かるものを用意し、緊急避妊薬の処方を受ける際に必ず申告してください。
参考情報
- PMDA「セント・ジョーンズ・ワートを含む健康食品に関するQ&A」
- PMDA「ノルレボ審査資料・薬物相互作用」
- 英国医薬品・医療製品規制庁「レボノルゲストレルと肝薬物代謝酵素誘導物質」
- ウリプリスタール30mg製品情報
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断や処方を行うものではありません。緊急避妊薬の種類や服用量については、医師または薬剤師へご相談ください。
この記事は役に立ちましたか?
口コミ
まだ口コミはありません。
